知ってる人は水道を経験してる
川の両岸に排水口がずらりと並んでいるような地域では、それぞれの工場が基準を守っても、排出される有機物質の総量が自然の浄化能力を超えてしまうかもしれません。
その場合には、総量規制が行なわれます。
1日に排出される物質の全体量が制限されるのです。
排水を水で薄めて濃度を下げれば排水基準を満たすこともできますが、総量規制されているところでは、汚染物質の量そのものを減らさないといけません。
もっとも工業用水の値段は高いので、きちんと排水処理したほうが安上がりだと思いますが。
排ガスの排出基準の決め方は、もう少し複雑です。
硫黄酸化物は空気より重たいから、煙突から吐き出されても、いずれ地上に落ちてきます。
そこで、落ちてきた硫黄酸化物濃度の最大値(最大着地濃度といいます)が環境基準を超えないように、排出基準が決められています。
窒素酸化物の排出基準はさらに複雑で、ボイラーの大きさや使用する燃料によって細かく分かれています。
水質の場合、「人の健康の保護に関する環境基準」、略して「健康項目」と言います。
有害物質と人間の健康との間に地域性はありませんから、こちらの基準値は全国一律です。
そういう値を決めることは容易ではなく、後からお話しするような、さまざまな工夫や割り切りをせざるを得ません。
地方自治体は、それぞれの地域の特性にあわせて、国の決めた排出基準より厳しい基準を条例で決めることができます。
これを「上乗せ規制」といいます。
琵琶湖は、近畿地方1400万人の水瓶です。
四方をぐるりと山に囲まれていますから、滋賀県内で発生する排水のほとんどが流れ込みます。
滋賀県は琵琶湖の水質を守るため、国の排水基準より3倍も厳しい基準を県内の工場に課しています。
排出基準は、少しでもオーバーしたら違反になります。
といっても、基準を超えた瞬間にパトカーがやってきて工場長が逮捕されるということはありません。
処理装置の調子が悪くて、たまたま基準を超えてしまったということもあるでしょう。
取り締まる側の市役所や県庁は、よほど悪質でないかぎり、一度や二度の違反なら注意して改善を促し、様子を見ることが普通です。
工場や発電所、廃棄物の最終処分場などが新たにつくられる時、これらと地元の県や市との間で公害防止協定が結ばれ、法律や条令で定める排出基準よりざらに厳しい協定基準が決められることがあります。
法的義務のない紳士協定ですが、こうした協定が全国で4000件も結ばれ、きちんと守られているようです。
工場は、いつも排出基準や協定基準ギリギリで排ガスや排水を出しているのでしょうか。
環境経済学の本には、汚染物質の排出量を減らすには経費がかかるし、求められる以上の努力をする義務はないのだから、工場は基準以下まで汚染物質を削減したりはしないと書いてあります。
規則に反して、身体障害者のための駐車場や部屋を設けないでホテルを運営していた社長さんが、このようなことを言っていました。
たしかに制限速度6kmオーバーで捕まることはまずないし、道路が空いていれば自動車が3ケタオーバーくらいで流れているのは普通です。
それでも自動車の制限速度は道路交通法で決められた基準であり、たとえ1kmでも超えたら違反です。
世の中には、制限速度以外にもいろいろな基準が法律で決められています。
未成年者飲酒禁止法という、大正にできた法律があります。
未成年とは20歳未満のことですから、20歳に達しない人が酒を飲めば違法です。
親や酒屋さん、飲食店が未成年者の飲酒をやめさせなければ、罰せられることがあります。
タバコも同じで、未成ところが実際に工場が排出している汚染物質の量は、基準よりかなり少ないところで収まっていることが多い。
生産量が多少変化しても基準を超えたりしないように、余裕をもたせて公害防止装置を設計してあるからです。
未成年喫煙禁止法という法律があります。
こちらはもっと古くて、明治17年にできました。
速度違反と同様、飲酒や喫煙に関する法律も、かならずしも厳密に守られているとは言えませんが、こうした基準には厳密な根拠があるのでしょうか。
制限速度には、高速道路は100km、一般道路は40kmという原則があるようですが、街中の一般道路になると50kmや60km、30kmというものがあります。
車線の数や通学路、カーブの数などによって定められているのでしょう。
40kmにするべきか50kmにするべきか判断に苦しむ道路もあると思いますが、間をとって45km、というのはありません。
飲酒や喫煙の20歳以上という基準の根拠は、20歳以上は大人だからいいだろうという程度のことではないでしょうか。
酒やタバコの疫学調査に基づいて決められたとは思えません。
日本では厳密に守られている18歳からという選挙権も、20歳から与えられる国もあります。
どちらが「正しい」というのではなく、いずれも最後は誰かが「えいやっ」と決めた基準です。
環境基準や排出基準に関しても、基本となるのは厳密な科学データなのですが、最後のところは同じように「気合」で決められています。
排水は川に流れれば3倍以上に薄まるだろうから、排水基準は環境基準の3倍になって有害物質の環境基準を決める時は、その物質を一生涯摂取し続けても、何の影響も現れない「耐容1日摂取量」を求めるところから始まります。
そして、耐容1日摂取量を超えない大気や河川水の有害物質濃度が環境基準になります。
ダイオキシンでも鉛でも、耐容1日摂取量を決めるには、まずその物質を1日にどのくらい摂取したら体に影響が出るかがわからないといけません。
影響とはガンの場合もあるでしょうし、神経障害や催奇性(胎児に奇形が発生する)など、さまざまなことが考えられます。
摂取することを、環境科学の世界では「暴露される」と言います。
恐ろしげな言葉でているとお話ししました。
環境基準の5倍くらいまで排水を浄化しなければいけないのではないか、いや100倍の濃度の排水を流しても問題はないのではないかなど、考え出したらきりがありませんが、最後は「えいやつ」と3倍に落ち着いたわけです。
排出基準のもとになる環境基準には、水質の生活環境項目や騒音の基準のようにいくつかの段階があります。
これも制限速度と同じように、周辺状況などを見ながら、適切と思われる基準をあてはめることになっています。
暴露量とは体内に入ってくる総量のことで、食物や水として口から入る以外に、呼吸を通して肺から吸収されたり、皮層を通して吸収されたりする分も含みます。
暴露量がゼロの時には、当然、影響は現れません。
有害物質も少量であれば、生物はその全部を分解したり排出したりできるため、あるところまでは何の影響も現れないのが普通です。
一部の細胞に悪影響が生じたとしても、軽微な影響であれば、それを自分で修復する回復力を生物は持っています。
けれども暴露量がある値を超えると体が対応しきれなくなって症状が現れ、それが発ガン物質であればガンになります。
それ以上暴露されてしまうと影響が現れる限界の量を「閾値」といいます。
見方を逆にすれば、閾値までは暴露されても影響が出ない(無毒性である)ということですから、闘値を無毒性量とも言います。
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